珍しい植物の育て方は情報が少ない
近年、ネットワークの発達により、世界中の見たことや聞いたことのない植物が比較的簡単に入手できるようになってきました。
しかし、誰も育てたことのないような植物は、その分入手できる情報が限られており、ネットで検索しても、耐寒性、耐暑性、水やりなどの管理方法がよくわからないことも多いです。
特に耐寒性は、寒さが避けられる場所に取り込むか否かで生死を分ける上に、取り込める場所には限りがあるため、とりわけ重要な情報です。
育て方は属単位で特性が全て同じであると言えるものではなく、種ごとに異なる特性が見られることがあります。例えば、Gladiolus uysiaeは比較的耐寒性が強いですが、他のグラジオラスの種ではそれほど耐寒性が強くないこともあります。
そこで、今回は育てる上で参考となる種ごとの情報を簡易的に得る方法を紹介します。
使うサイト
使うサイトは以下の3つです。これらを組み合わせて、自生地の気候の情報を得ることで、育て方の参考情報を得ます。
・JSTOR Global Plants・・・世界中のあらゆる植物の標本や自生地の情報が得られるサイト。
・Google map・・・言わずと知れた世界的MAP。
・Meteoblue・・・シミュレーションにより世界中の任意の点の気候を調べることができるサイト。
調べ方
1.JSTOR Global Plants
まずJSTOR Global Plantsを開き、searchに調べたい植物の学名を入力し、右の赤い虫メガネをクリックします。
今回はNemesia barbataを例にします。検索すると、いくつか引っかかりました。
いくつかのページをクリックして、採集した場所を示すLocalityが掲載されているページを探します。
今回はこのページが良さそうです。LocalityがStellenbosch、CountryがSouth Africaになっていることをチェックします。どうやら南アフリカのStellenboschで採集されたみたいです。
Google map
次にGoogle mapを開きます。先ほど調べたLocalityを入力し、検索します。
ここで一つ注意点があります。Localityは世界中に同じ名前の地名がある場合があるので、国が正確にあっているのか確認します。今回は南アフリカなので間違いなさそうです。
地図上で右クリックし、数字(緯度経度)をクリックするとコピーされます。
Meteoblue
最後にMeteoblueを開き、Location searchで先ほどコピーした緯度経度を貼り付けます。
すると一番上に青色に?で書かれた場所が表示されるのでクリックします。?の場所がその緯度経度の場所、その下に入力した緯度経度に近い場所が表示されます。
クリックすると、シミュレーションの気候が表示されます。
Average temperatures and precipitationの図を見ます。青の実線が日最低気温(Mean daily minimum)の30年間平均値、破線が月最低気温(Cold nights)の30年間の平均値を表します。耐寒性を調べるには最も寒い月の月最低気温平均値を使います。
なぜなら、その植物は年に一度は訪れる月最低気温を乗り越えて自生地で長年生息しているので、その気温は最低耐えられると考えられるためです。
同様に耐暑性を見る場合は月最高気温平均値(Hot days)を使います。
今回の例で読み取れる情報は以下の通りです。
①冬は最低温度が2℃で凍ることはない。
②夏場は最高37℃ほどに上昇する。
③夏に乾季、冬に雨季がある。
どうやら氷点下には耐えられそうにないです。寒さが避けられる場所に取り込んだ方が無難そうですね。
どうでしょうか。育てる上で参考になる情報がある程度は得られたのではないでしょうか。
注意点
いくつかの注意点があります。これらを踏まえた上で参考にしてください。
1.シミュレーションには誤差がある
シミュレーション解像度は約 30 kmで、局所的な微気象は再現できないとあります。30kmといえは東京ー横浜間くらいの長さなので結構大きいかもしれません。また、複雑な地形をもつ場合、誤差が大きくなる可能性があります。
2.自生地の環境=最適解とは限らない
自生地の環境が必ずしも成長を最大化させるとは限りません。
例えば、Monsoniaは雨量が少ない乾燥地で生息しており、とても成長が遅いのですが、人工光源下で腰水栽培すると、数十倍もの成長速度が得られることが報告されています。これは他の植物との競争の結果、厳しい環境で生息せざるを得なかったためと考えられます。
3.意外と適応範囲が広い場合もある
自生地から推測すると耐えられないような環境でも、意外と耐えられる場合もあります。
例えば、Moraea villosaは自生地を調べると、夏に乾燥し冬は凍らない場所で生息していますが、実際は-5℃でも平気なほど耐寒性が高く、日本の雨が多く暑い夏でも難なく乗り越えられるほど適応範囲は広いです。これにはいくつかの理由が考えられます。
①自生地の範囲が広い
採集地は所詮自生地の1地点でしかなく、自生地の範囲が広い場合、代表性に乏しくなります。もし、他にもLocalityが示されているなら、それらも見ると良いかもしれません。
②温度や降水量以外に分布制限要因がある
温度などの環境要因以外の理由で自生地の分布範囲を広げられないケースです。推測ですが、花粉媒介者や、他の植物との競争、地理的な要因も関係あるのかもしれません。